結局、日本にとっての世界剣道選手権とはなんだったのか
剣道日本が復刊された直後の「第0号 vol2」。
この号でフランス剣道連盟顧問の好村兼一教師八段が執筆された、第17回(2018年)世界剣道選手権大会のコラムがありました。
要約すると大きく2つ
・昨今の日本剣道は模範としての剣道が出来ていないのではないか
・韓国は世界を牽引する存在にあるのだから、剣道の基盤となる思想を理解してもらいたい
になります。
韓国の話については最もだと思います。
韓国の剣風はここで話題にしませんが、振りの速さやすり足など剣道に特化した練習を積んでこられているのは伺えます。
これは他国と比較しても一線を画しているように感じます。
だからこそ、審判にサッカーのファールのようなアピールをするのはうーむ…と今年の決勝を見ていても感じました。
わたしが疑問に感じたのは「日本の剣道は模範を示しているのか」というところ。
日本のチーム作成の方針はどういったものだったのでしょうか。
ここを調べてもそれらしいことは見つかりませんでした。
しかし、今回起用された人材から推測すると世界に模範を示す「強く正しい剣道」というよりは「強い剣道」をする選手が選ばれたように感じます。
コラムは日本の大将、つまり「安藤 翔」選手のことだと思われますが「チームのスコアだけを頭に置いた醜いぶつかり合い」と叱咤激励されるところから始まります。
安藤選手はご自身の剣道を出し切ったのではないか
安藤選手は第二・第三の矢を放つ波状攻撃が象徴的ですが、平たく言えばバタバタすると言いますか、竹刀を上に持ち上げ気味だったり守りから攻撃に入るところも見受けられます。
とくに印象にあるのは「第63回全国警察剣道大会」。
その時、北海道警の安藤選手は副将に就かれています。3位決定戦で警視庁と対戦、副将の時点で3-2で北海道警が不利、という状況です。18分あたりから副将戦が始まりますが、特に延長になった24分以降からは目立つかな、と言う印象です。
【H28全国警察剣道大会】【1部・三位決定戦】警視庁×北海道【五将・遅野井×後木 中堅・畠中×地白 三将・正代×工藤 副将・髙橋×安藤】
これはご自身もお気づきでいらっしゃると思いますし、ひょっとすると普段の練習でそのようなご指導をいただくことも多いかもしれません。
世界大会に目を向ければ韓国は日本の脅威と言える存在であり、接戦になることは想像に難くない中での大将での起用。やはり日本は安藤選手の接戦をものにする勝負強さに魅力を見出しての起用だったのだと思います。
であれば、安藤選手は期待通りに本来の自分の剣道を出し切ったのではないでしょうか。わたしは色々な選手がいる中での安藤選手を大将で起用したのは「強い剣道」がチーム方針であったならむしろ正解だったと感じます。
※一応注意書きですが、安藤選手は単に試合に強いだけではなく、一撃ごとの攻撃力の高さもあり、強く正しい剣道もされる方です。どちらかと言えばその剣風から「強い剣道」としての印象が残る、という解釈です。
あの内村選手でさえ…
なにより、これは日本は勝って当たり前の雰囲気が強い世界大会です。
前回大会、「第16回世界剣道選手権大会」も決勝の相手は韓国。日本の大将は警視庁の「内村 良一」選手。試合は2-1で本数も1本差でかろうじて日本が有利という展開。
内村選手の剣道が変わるところを見たことがありませんでしたが、その内村選手を変えてしまうくらいの雰囲気なんだと感じました。
「世界大会は合議や反則が少ない」とコラム執筆者の好村先生も書かれていましたがまさに仰る通りのように感じます。内村選手の試合は19分ごろから見ることができます。
第16回世界剣道選手権大会16th wkc【男子団体決勝】Men‘s Team Championship Final JAPAN×KOREA
もしも「強く正しい剣道」をする人材起用であるならば①
明言は避けますが、今回日本代表の候補の段階から選ばれていた数十名の方々の中には、つばぜり合いで足をひっかけて倒れたところを一本にしている選手もいらっしゃいます。
その賛否はここでは避けますが、間違いなく偶然起きてしまう現象ではありません。その事実は「世界に模範を示す剣道」の代表なのかを疑問に感じます。
しかし、それでも候補に選出されることを考えれば、やはり「強い剣道」がチーム作成の方針にあったのではないでしょうか。
もしも「強く正しい剣道」をする人材起用であるならば②
日本には構えの美しさに定評のある福岡県警の「國友 鍊太朗」選手もいらっしゃれば、上下の打ち分けが恐ろしいほどうまい、王道剣道の警視庁「正代 正博」選手もいらっしゃいます。
しかし、両選手は代表になりませんでした。
以上のことから、今回大会のチーム作成方針は「試合に勝てるメンバー」だったのではないかと感じます。
だとすれば、5人の方々は自分の剣道を出し切ったように見えます。そこに対しての「お粗末な決勝戦」というコラムタイトルは、戦った選手が少し不憫に感じます(好村先生、平たい言い方で本当に申し訳ございません)。
今回の日本の行動を次回に活かすならば、チーム作成の方針がどのように定義されていたのか。それは全日本剣道連盟によるものなのか、石田監督とコーチを中心としたものなのか、はたまた別からなのか。
ひょっとせずとも、関係者の方々は「そんなことはわかってる」んだと思います。しかし、皮肉なことに中々「変えられない」というのが日本らしいのかもしれません。
好村先生はフランス在住の剣道8段。
国内では切り出しづらいことも海外から発信されており、日本の剣道ひいては世界の剣道のことを考慮されての執筆とお見受け致します。ぜひ、好村先生には剣道の世界が変わるきっかけ作りを期待してしまうばかりです。
わたしもわたしが好きな剣道の世界がより豊かになるように、批判承知で感じたことを書き連ねました。
今回の内容には決して個人を否定する目的ではないことを断言致しますが、関係者の方々がお気を悪くされましたら恐縮でございます。
が、1人の剣道愛好家の他愛事と受け止めていただけますと幸いです。